<名門校>渋谷幕張の軌跡 東西名門に迫る屈指人気校に

 

<名門校>渋谷幕張の軌跡 東西名門に迫る屈指人気校に

 

 

 

 

開校30年あまりで東京大学をはじめとした国内難関大学の合格実績を大きく伸ばすと共に、海外の名門大学も進学先として定着し、全国屈指の人気校となった渋谷教育学園幕張中学校・高校(千葉市美浜区)。「自調自考(じちょうじこう)(自ら調べ、自ら考える)の力を伸ばす」「倫理感を正しく育てる」「国際人としての資質を養う」という三つの教育目標を掲げ、他校とは一線を画す独自の学習指導と学校運営で進学校に成長した「渋幕」の軌跡を追った。【和田武士】


 ◇東大過去最多

 78人。渋幕の今年の東大合格者数だ。開成、筑波大駒場、灘、麻布という東西の名門に次ぐ5位。麻布とは1人差で現役合格者は上回る。創立者で同学園理事長の田村哲夫校長(81)は麻布出身。開設当初から「麻布に負けないような学校にしたい」と周囲に語ってきたといい、「コツコツと30年かけて出した結果。しっかり地力をつけているので今後そうは変わらない」と自信を見せる。今年は県内の東大合格者の半数以上を渋幕が占めた。

 1958年に東大法学部を卒業した田村校長は約4年間の銀行勤務を経て、父が理事長を務める同学園の運営に携わる。このとき定時制の教壇に立ち、生徒の真剣な学習姿勢に触れて教育者という仕事に面白さを感じたという。女子校を経営していたが70年に父が他界し跡を継ぐと、共学中高一貫校の創設に向けて動き出す。選んだ場所が幕張。現在校舎が建つ一帯はアシ原で京葉線も開通前だったが、県が文教地区として整備を進めており、複数の教育機関が進出を決めるなど将来の発展が期待できた。

 ◇「真ん中の子」

 創設は83年(中学は86年)。この年は県内では他に私立4校、公立9校が開校する新設ラッシュだったが、渋幕は生徒募集に際し「真ん中のレベル」を狙う。田村校長の掲げた目標は「千葉県随一の進学校をつくる」。開設準備に携わり、後に副校長となる星合(ほしあい)晃生さん(73)=現・文理開成高校(鴨川市)顧問=は「真ん中くらいの生徒なら力を伸ばせると考えた」と明かす。しかし既に県内に学校を持つ法人が新設する他の4校に対し、渋幕は県内の実績ゼロ。高いハードルだった。

 星合さんらは既存の高校がどのような入試を行い、どの中学校から来ているかや、通学可能エリアの中学校のレベルを調べ上げると同時に、関係をつくるため中学校回りを重ねた。その数約100校。関心を寄せる中学校があった一方で厳しい言葉も浴びせられたこともあったという。「東京から来た新設の私学が『真ん中くらいの子供を受けさせてくれ』なんてふざけるな」。新設校なら誰でも入れるだろう--。そんな本音が露骨に見えた。

 ◇倍率10倍超す

 迎えた初の入試。受験者数が定員に満たない新設校もある中、男女計350人の募集に対し10倍を超える4000人近い受験生が集まり、校舎に一度に収容できず午前と午後に分けて試験を行ったほどだった。結果も狙い以上だった。星合さんによると、入学者の偏差値の平均は53で、目指した「真ん中」よりもやや上のレベル。星合さんは「開校当初に53なんて学校はまずない。徹底した分析による成功」と強調する。

 「千葉は(上位進学校を公立高校が占める)『公立王国』で突出した私学が少なかった」。そう指摘するのは私学に詳しい安田教育研究所(東京)の安田理代表(72)だ。80年代から90年代前半にかけて県内の公立校は、学校側が子供たちを校則や厳しい指導で管理する教育手法(管理教育)で知られ、「東の千葉、西の愛知」と言われたほどだった。安田代表は「渋幕の明るく開放的な雰囲気が保護者に歓迎されたのだろう」と分析する。

 

毎日新聞