ここ数年、中学入試の傾向として、大学の附属校や系列校に志望者が集まる「附属志向」が続いています。今回は「附属志向」の背景と今後の見通しについてお話しします。
最近、私が昔教えていた塾の「同窓会」がありました。かつての中学受験生たちは、今は40歳代になっており、わが子の中学受験に直面しています。
その中の一人の、「大学入試がどう変わるかわからないから、進学校は不安。今附属校に入れればそのほうがいいですよ」という女性の話が印象的でした。
「大学入試改革の方向性が不透明」ゆえの「附属志向」、とは以前から指摘されてきたことですが、あらためて当事者の声を聞くと「やはりそうか」という思いがありました。
また、2016年度からの私立大学の定員厳格化により、早慶やMARCH等の倍率が上がったことも、「附属志向」に拍車をかけています。
一方、慶應義塾幼稚舎、青山学院初等部など併設小学校のある学校は内部進学生も増加傾向にあります。また、これまでは女子校の進学校を選んでいた成績層の女子が、共学の附属校を選ぶケースも増えており、「附属」「共学」志向は特に女子に顕著といえます。
東京都の年少人口は東京都区部で2020年~25年までに1割、2025年~30年までにさらに1割減少する見通しです。
2008年のリーマンショック以降、中学受験者数はピーク時の2割がた減少しましたが、その結果、難易度中位以下の学校の志望者が5~6割減少しました。今後小6生人口そのものが減ると、定員を満たせない学校がさらに増えると考えられます。できれば2020年までに、はっきりした特色を打ち出し、実績を上げて定評を得ておきたい、いわば学校の「ブランド」を確立したいという思いのもと、多くの学校現場では模索が続いています。
附属・共学志向が続く中、男女別学や進学校ゆえの良さを打ち出そうとする学校もたくさんあります。
たとえば、共立女子中学では2016年度から「算数+合科型論述テスト」を、品川女子学院では2018年度から算数1科入試を開始します。
近年、理系学部はもちろん、経済学や経営学など、様々な分野で数学が重視されるようになってきました。両校の算数入試は、「女子校は理数教育に弱いのでは」という一般的なイメージを覆し、「時代を見据えて数学、理数教育にも力を入れる」という方針の現れともいえるでしょう。
大学入試改革の根本にあるのは、「高大接続」の考え方です。
これまでの教育は知識偏重に陥りやすく、高校で学ぶことと、大学や社会で求められることにズレが生じやすい面がありました。今後は高校でも、大学や社会で求められる、答えのない課題に取り組むための思考力や判断力、表現力をつけていこう、というのが新しい指導要領の方針です。そのための手段として重視されているのが課題研究です。様々な問題について調べ、思考を深め、話し合いながら解決法を見出していく課題研究の経験は、今後大きな意味を持ちます。
今後の大学入試は、一般入試が減り、推薦・AO入試の枠が広がる見通しです。推薦・AO入試といっても評価方法は大学・学部によって異なりますが、面接や小論文、討論等によって思考力や判断力、表現力を幅広く評価するスタイルの入試は、ますます増えていくでしょう。
附属校には、大学との連携により課題研究を授業に取り入れやすいという強みもあり、今後も人気は続いていくと考えられます。しかし、課題研究の成果が実際に表れるのは時間がかかります。
志望校決定前には、偏差値や大学合格実績といった数値にまず目が行きがちですが、今後は教育の「中身」をより深く吟味する必要性が増してくるのではないでしょうか。
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