「東大に一番近い進学校」にジワリ 駒場東邦の「その気にさせる教育」って?

 

 「男子新御三家」と呼ばれる中高一貫の私立男子校、駒場東邦中学・高校(東京都世田谷区)。進学実績をどんどん伸ばし、今や4人に1人は東京大学に進学する。一方で、軟式高校野球部が東京都の大会で優勝するなどスポーツも盛ん。教師や保護者、先輩と後輩のつながりも深く、「駒東ファミリー」のような雰囲気だ。隣接する全国トップ級の進学校、筑波大学付属駒場中学・高校(筑駒)のライバル校に浮上している。世田谷区池尻にある駒東を訪ねた。

 

 

■なぜ筑駒より駒東なのか

 「筑駒に受かっても、ウチに来る生徒もいます」。駒東の平野勲校長はこう話す。筑駒は3人に2人が東大に合格する超進学校だ。しかも国立校なので授業料も高くない。駒東と筑駒の校舎は隣同士で、通学条件は同じだ。実は両校の生徒は小学校時代からの顔見知りが少なくない。SAPIXなど同じ進学塾に通った「塾友」だったりするためだ。なぜ筑駒ではなく駒東を選ぶ生徒がいるのか。
 「文化祭や体育祭を見学して、駒東ファンになる保護者や生徒が多いのではないか。中学受験では、母親などの保護者が志望校を決める場合が多いから」と進学塾の関係者は明かす。ある保護者は「駒東の文化祭で、子供とウオーターボーイズのイベントを見て、ここに入りたいと。筑駒は自由だけど、『地頭』がよくないと成績は伸びない。その点、駒東は先生方の面倒見もいいし、体育会系の部活にも熱心だから、うちの子に向いていると思いました」という。

 

「東大に一番近い進学校」にジワリ 駒場東邦の「その気にさせる教育」って?

水泳部が文化祭で披露したウオーターボーイズ=駒場東邦提供

 

 

 

■文化祭、ウオーターボーイズが人気

 文化祭や体育祭は、学校の特徴を発揮すると同時に、最大のPRの場でもある。9月16~17日の文化祭では、水泳部の部員が演じる男子のシンクロ「ウオーターボーイズ」が人気イベントになっている。物理や化学など理系の部活のほか、鉄道研究などのクラブ活動もあり、見学に来た小学生や保護者を引きつける。
 5月の体育祭は赤、白、青、黄の4つの色にチームが分かれて競う。中高一貫の6年制で、クラス替えはあるが、体育祭のチームは変わらない。中学1年生で赤組に組み込まれた生徒は6年間、赤組になる。そこで高校生の先輩が中学生を指導するので、きずなが深まる仕組みだ。開成中学・高校も運動会を通じて先輩・後輩の関係を構築するが、駒東は「就職活動の時も、大学よりも中高の先輩を訪問するケースが多いようです。先輩を訪問したらすぐ『君は何色だった?』と聞かれる。これですぐ意思疎通できるようになります」(平野校長)という。
 駒東は2017年で創立60年を迎える戦後生まれの学校だ。開成や麻布中学・高校、武蔵高校・中学のいわゆる「男子御三家」の名門校よりは歴史が浅い。しかし、1980年代から進学実績をメキメキ伸ばした。今や御三家を追う新御三家の筆頭格だ。ちなみに新御三家とは駒東のほか、海城中学・高校。巣鴨中学・高校をさすという。

 

 

■ユーグレナの出雲氏もOB

 駒東の1学年の定員は240人。17年の進学実績は東大51人、京都大学11人、東京工業大学17人、一橋大学9人で、国公立大の合格者は計143人だった。過去3年間の東大合格者の平均で見ると、4人に1人が東大に進学している計算だ。進学実績では、御三家の武蔵を上回り、開成や麻布に迫る勢いだ。なぜ伸びたのか。
 平野校長は「先輩の力じゃないかな。うちのOBは何かと学校に戻ってきて、後輩の相談に乗るんです」という。
 実は駒東は、東大の駒場キャンパスから徒歩でわずか10分ほどの場所にある。東大に通う卒業生は、気軽に後輩たちの前に顔を出せる。「あの先輩が東大なら僕も」とその気になる生徒も少なくない。平野校長は「OBは社会人になってもよく学校に来ます。私の教え子の39回生なんか、毎年ここで同期会を開いています。その中には『ミドリムシ』で有名になった起業家の出雲充くん(ユーグレナ社長)もいます。彼は中高時代から目立っていました。新しいことに挑戦するのが好きで、かなりの凝り性でしたね」と話す。
 先輩を活用したキャリア教育もやっている。出雲氏のほか、イトーヨーカ堂社長を務めた亀井淳氏、外務省の事務次官だった斎木昭隆氏など有名OBをその都度招いて講演してもらっている。

 

 

「東大に一番近い進学校」にジワリ 駒場東邦の「その気にさせる教育」って?

図書館では多くの生徒が自習している

 

 

 

■軟式野球で日大三高破る

 駒東の校舎を歩いていると、母親などの保護者の姿が目立つ。秋には保護者とのバス旅行などで学校側との親睦を深めている。「部活とか、学校行事に携わっている保護者の方が多いです。教師と情報を共有し、打ち合わせもしているようです」と平野校長は説明する。確かに部活は盛んだ。9月には軟式高校野球の都の秋季大会で、日本大学第三高校を破り、優勝するなど有名進学校と思えぬ成果を上げている。バスケットやアーチェリー、陸上などでも強豪だ。高校化学グランプリや日本数学オリンピック本選出場でも常連校となっている。
 「ウチは保護者にも協力してもらって、一緒に生徒を育てるという考え方です。上から『勉強しろ』と言っても、男子生徒はあまりしません。その気にさせるのがポイントです。保護者の方とも色々相談しながら、作戦も練るわけです」という。
 日々の授業も、その気にさせることに重点を置いている。中学などは1クラス40人だが、20人ずつに分ける「分割授業」と呼ぶ方式を英語や数学、理科実験などで導入している。成績順位で上位と下位に分けるという発想ではなく、1人の教師と各生徒との対話を深め、実験などの機会を多くして、実際に触れさせるのが狙いだ。駒東には9つの実験室がある。「中学の技術(ものづくりや情報)や高1の調理や裁縫など家庭科でも分割授業でやっている。これからの男子は家庭科が不可欠でしょう。実際に手で触れて、面白いやと感じるのが大事」という。

 

 

■その気にさせる教育

 どうやら駒東が急伸した秘密は「その気にさせる教育」にありそうだ。先輩から大学や会社の話をしてもらい、保護者は見守り役になる。その気になる環境もある。隣には筑駒があり、強い刺激を受ける。近くの東大には駒東OBの教授もおり、研究の様子なども見学させてもらえる。南隣には、同じ学校法人の東邦大学医療センター大橋病院がある。その医師に「ブラックジャックセミナー」などを開催してもらい、医学部志望の生徒のやる気を呼び覚ましている。
 一度その気になった生徒は自分で勉強に集中するようになる。放課後の図書館には多くの駒東生が自習に取り組んでいた。
 駒東から歩いて7分ほど、京王線の駒場東大前。駅前には高校生や東大生の姿ばかり。駒東や筑駒以外にも周辺には都立国際高校や都立駒場高校もある。進学校がこれほど集まっている地区は全国に他にない。
 就活で大手金融機関を受けたある卒業生は「5回面接してもらったうち、3回が駒東OBでした」という。教師と保護者、先輩と後輩のつながり深い「駒東ファミリー」。東大に一番近い学校になる日も近いかもしれない。


(代慶達也)

 

日経スタイルから転載